肝臓がん

肝臓から発生する「原発性肝がん」と、ほかの臓器に発生したがんから転移して生じる「転移性肝がん」があります。また、「原発性肝がん」には肝細胞を母体として発生する「肝細胞がん」と胆管細胞を母体として発生する「胆管細胞癌(肝内胆管がん)」があります。

肝細胞がん

C型・B型肝炎ウイルス感染、アルコール性肝炎、脂肪性肝炎といった慢性的な肝障害が基礎疾患となっていることが多く、治療方針を立てる際に進行度(病期)と肝障害の程度のバランスが重要です。

Ⅰ.肝細胞がんの病期(ステージ)

肝細胞がんの病期は、がんの大きさ、個数、がんのひろがり方によって決まります。

Ⅱ. 肝細胞癌の治療選択

肝障害の把握(Child-Pugh分類)

治療法を選択する際は、肝障害の程度を確認することが大切です。肝障害の程度を把握するために、Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類が用いられ、AからCへと進むにつれて障害の程度は強まります。

治療の選択

  • 肝切除
  • ラジオ波焼灼療法(RFA)
  • 肝動脈化学塞栓療法(TACE)
  • 分子標的薬による薬物療法
  • 肝移植

がんの病期(ステージ)だけでなく、肝細胞がんの背景となっている肝障害の程度(Child-Pugh分類による評価)を考慮して治療方法を選択します。

肝細胞がんの病期、Child-Pugh分類、肝癌診療ガイドライン(外部サイト)

【肝切除】

Child-Pugh分類がAまたはBで肝機能が良く、がんが肝臓にとどまり、3個以下の場合に行います。がんの大きさには制限はなく、大きなものであっても切除が可能な場合もあります。また、がんが血管、胆管へ広がっていても、肝切除を行うことがあります。ただし、腹水がある場合は、術後に肝臓が機能不全(肝不全)になる危険性が高いため、通常は肝切除以外の治療を行います。
存在位置、肝機能(に応じて、小範囲の部分切除から広範囲の肝葉切除に至る切除範囲を決定します。

【腹腔鏡下肝切除】

当院では、肝外側区域切除または部分切除の範囲で、がんが切除可能である場合に適応しております。

胆管細胞がん(肝内胆管がん)

肝細胞癌に比べて頻度は少ないですが増加傾向です。肝臓に基礎疾患がない中高年の方に発症します。

Ⅰ.胆管細胞がんの病期(ステージ)

胆管細胞がんの病期(外部サイト)

Ⅱ.胆管細胞がんの治療

胆管細胞がん治療は、切除が基本となります。肝障害が少なく肝細胞がんより肝切除量の制限も少ないですが、腫瘍が大きいことが多く多彩な進展を示すため、それらを考慮した切除が必要です。また、肝細胞癌と異なりリンパ節に転移しやすい特徴があり、周囲のリンパ節を一緒に取り除く手術を行います。

転移性肝がん

別の臓器にある腫瘍細胞が血液の流れに乗って肝臓にたどり着き、肝臓内で増殖することによって起こります。その元となった腫瘍の病期ではステージⅣに相当することとなりますので、治療はおもに全身性化学療法が一般的ですが、手術が効果的な治療法になる場合があります。
最も多いのが大腸がんからの転移によるもので外科的切除が可能であれば生命予後の改善が見込めます。安全な肝切除量の範囲内で転移腫瘍が完全に切除できること、元の臓器の腫瘍を含めた肝臓以外の病変が制御可能であることを条件に切除可能と判断します。肝切除後に再び再発した場合にも、同じ条件で再度肝切除を行う判断をします。
最近は大腸がんだけでなく、胃がん・乳がん・腎がん・卵巣がん・GIST(消化管間質腫瘍)などからの転移でも、転移の数やもとの臓器の腫瘍の状況によっては肝切除手術が予後改善に効果が期待できる場合があります。

                             

胆道疾患

胆道がん

肝臓で作られた胆汁という消化液を十二指腸まで運ぶ通り道を「胆道」といいます。肝内胆管、肝外胆管、胆嚢、十二指腸乳頭部に分けられます。さらに肝外胆管は肝臓に近い「肝門部領域胆管」と膵臓に近い「遠位胆管」に分けられます。

Ⅰ.胆道がんの病期(ステージ)

胆管細胞がんの病期・治療法(外部サイト)

〈肝外胆管がんや胆嚢がん〉

壁内に腫瘍がとどまるものがI期とII期、壁をこえて隣接する臓器やリンパ節へ広がっている場合がIII期、それよりさらに広がっている場合や転移を伴う場合はIV期になります。

〈肝内胆管がん〉

胆管細胞がんともいわれ、原発性肝臓がんの一つとして扱われます。

Ⅱ.治療法の選択

胆管細胞がんの病期・治療法(外部サイト)

Ⅲ.手術治療

胆道がんの手術は、ごく早期の場合を除いて切除範囲が大きくなることが多く、体への負担も大きくなります。

〈手術可否の判断〉

  • 体が手術に耐えられる状態
  • 遠隔転移がない(Ⅳ期ではない)
  • 肝切除が必要な場合は、手術後に残る肝臓の機能が十分であると予測される

〈術前の準備〉

  • 門脈塞栓術

    がんのできた場所によっては、肝臓を広範囲に切除する必要があります。肝臓を半分以上切除する場合、手術後の肝臓の機能を維持するために門脈塞栓術を行います。切除する側の肝臓の血管をふさぎ、残る側の肝臓の血流を増やして、容積をあらかじめ大きくする治療です。

  • 胆道ドレナージ

    黄疸の症状があるときには、術前に胆道ドレナージを行います。

    • 【手術法】

      〈肝門部領域胆管がん〉
      手術例(拡大肝右葉切除・肝外胆管切除)
      がんが存在する胆管のほかに肝臓や胆のうなど周りの臓器の一部や、周辺のリンパ節も切除することでがんを取りきることを目指します。切除後は、残した胆管と小腸をつなぐ再建手術を行います。

      〈遠位胆管がん、十二指腸乳頭部がん〉
      手術例(膵頭十二指腸切除)

      遠位胆管や十二指腸乳頭部にできたがんは膵臓へ広がることがあるため、胆管、胆のう、膵頭部(十二指腸に接している膵臓)、十二指腸および連続する胃や腸の一部を周囲のリンパ節を含めて切除します。切除後は、残した胆管や膵臓、胃を小腸とつなぎ合わせる再建手術を行います。

      〈胆のうがん〉

      • 胆のうの内側を覆う粘膜・筋層にとどまっている早期のがん場合
         胆のうを切除するのみで切除可能です。
      • がんが筋層を越えて深く進行している場合
         肝臓の一部を合併切除し、リンパ節郭清も必要となります。
      • がんが胆管に浸潤している可能性がある場合や、リンパ節転移がある場合
         肝外胆管切除の追加が必要です。
      • さらに胆のうがんが進行し、肝外胆管や肝動脈に浸潤している場合
         肝門部胆管がんの場合と同じように、拡大肝右葉切除と肝外胆管切除を要します。
      • また、膵頭部や十二指腸に浸潤している場合
         遠位胆管がんの場合に行う膵頭十二指腸切除を合わせて行う場合があります。

      Ⅳ.薬物療法(化学療法)

      手術によってがんを取りきることが難しい(切除不能)、がんが再発した場合

      薬物療法だけでがんを完全に治すことは困難ですが、がんの進行を抑えて、生存期間を延長したり、症状を和らげたりする効果が期待できます。 鍵となる薬剤は、ゲムシタビン、シスプラチン、S-1の3種類があり、これらの薬を組み合わせることで、より高い効果が出ることが知られています。

      • GC療法:ゲムシタビン+シスプラチン
      • GS療法:ゲムシタビン+S-1
      • GCS療法:ゲムシタビン+シスプラチン+S-1

      術後補助療法としての薬物療法

      胆道がんの手術では、肉眼的には完全に取りきれたように見えても、がん細胞が残っていて再発することがあります。このため、手術の後に薬物療法を補助療法として行うことがあります。

                                   

      胆石症

      胆汁がつくられるのは胆嚢ではなく肝臓

      胆嚢とは、食物の中の脂肪分を消化するために必要な「胆汁」という消化液を蓄えておくための袋状の臓器です。胆汁は肝臓で作られた後、一時的に胆嚢に蓄えられ、食事を摂取すると胆嚢が収縮し、腸へと胆汁が流れ出す仕組みになっています。

      胆石は胆嚢結石だけではありません

      胆嚢の中で胆汁の成分が固まって石を作ってしまう病気を胆石症といいます。一般に胆石ともいわれます。結石にはコレステロールを主成分にするものやビリルビンを主成分にするものなどさまざまな種類があり、胆嚢の中に1個だけの場合や、小さいものが100個以上ある場合など数や大きさも千差万別です。また、胆石には胆嚢の中にある「胆嚢結石」ばかりでなく、肝臓の中の胆管や、胆汁の通り道である総胆管にもできることがあります(肝内結石症、総胆管結石症)。胆管内に石ができた人は症状がない場合でも今後症状が出現する可能性が高いため、治療の適応になります。

      胆石が引き起こす胆石発作と胆嚢炎

      胆石を持っている人すべてに症状が出るわけではありません。半分以上の人は胆石を持ちながらも無症状で生活しています。 胆石が胆嚢の出入り口にはまりこみ、塞がってしまうと症状が出現しますが、主に2つの状態が考えられます。1つ目は胆石発作と呼ばれる右上腹部を中心とする脇腹~背中の痛みです。胆石発作症状を認める場合は、原則、手術が必要です。また、胆石が多数存在する場合や胆嚢壁が厚い場合は、症状の有無にかかわらず、慢性的な刺激による発癌の危険性があるため、手術が望ましいです。
      2つ目は胆嚢炎を起こした場合です。胆石が胆嚢の出口を詰め、胆嚢内の胆汁がうっ滞し、その刺激で胆嚢の壁に炎症が起こり、右上腹部痛に加え発熱も出現し、全身状態が悪化していきます。症状が出現した人は原則として治療の適応になります。

      胆石・胆嚢炎の治療

      胆石・胆嚢炎の治療法は、外科的に手術する方法のほかに、食事療法や薬物療法(胆石溶解剤、鎮痙剤等)があります。しかし、結石だけを取り除く方法では状態のよくない胆嚢が体に残るので、根治できたとは言えません。そのため、胆嚢ごと取り除く手術による治療(胆嚢摘出術)が標準的治療として行われています。また、急性胆嚢炎の場合、大切なことは発症後早期(72 時間以内)に手術をすることが望ましいということです。これは、発症後時間がたつと炎症の影響で胆嚢と周囲の臓器が固く接着してしまう、「癒着」という変化が起こり、以後の手術が困難になるからです。 胆嚢摘出をお勧めした場合、「胆嚢が無くなっても大丈夫なのか」という質問をよくお受けしますが、ご安心ください。先にも述べたとおり、胆嚢は胆汁をためておく袋です。胆汁の産生は肝臓で行っておりますので、胆嚢がなくなっても腸に流れてきます。術直後一時的に下痢をしやすくなる程度で、最終的にはおさまりますので特に困られることはありません。

      腹腔鏡を用いた胆嚢摘出術

      当院では胆嚢手術を施行するにあたり、腹腔鏡手術を施行しております。手術後の傷が小さくてすみ、術後の痛みも少なく、術後早期に経口摂取が可能などのメリットが多い術式となっております。
      腹腔鏡下胆嚢摘出術は、お腹を二酸化炭素でふくらませ、おへそに開けた小さな穴から入れた腹腔鏡を通して、テレビモニターに映し出されたお腹の中の映像を見ながら手術を行います。 手術は全身麻酔で行います。細いチューブを通して電気メスや特殊なはさみなどの手術器具を使って胆嚢を切り取ります。切り取った胆嚢はおへそに開けた穴からとりだします。

      最近では器具の進歩と技術の向上に伴い、おなかに開ける穴を少なくし、痛みを軽減して傷を目立たなくすることも可能になってきました。単孔式腹腔鏡手術は、「傷が少なく目立たない」点が特徴であり、おなかの中で行われる手術内容は通常の腹腔鏡手術と同じです。しかし、小さな創から 複数の鉗子や道具を挿入するため高度な技術が必要で、手術適応も術前検査で 比較的やりやすいと思われる方に限定しています。また、手術中にこの方法のメリットが発揮できないと判断した場合は、通常の腹腔鏡手術(あるいは開腹手術)に切り替えて、本来の治療目的を達成します。

           

      膵疾患

      膵臓がん

      膵臓は胃の後ろにある左右に細長い臓器で、十二指腸に連続する側から「頭部」、「体部」、「尾部」と三つに区分されます。膵臓の内部には膵液の通り道「膵管」があり、多くの膵臓がんはこの膵管の細胞から発生します。

      Ⅰ.膵臓がんの病期(ステージ)

      膵臓がんでは0期〜Ⅳ期まであり、3つの因子により決定します。

      • T因子:がんの大きさや周囲への広がりの程度
      • N因子:リンパ節への転移の有無
      • M因子:他臓器などへの転移(遠隔転移)の有無

      膵臓がんの治療・病期(外部サイト)

      Ⅱ.治療法

      膵臓がんではまず、切除の可能性により「切除可能」「切除可能境界」「切除不能」の診断を行います。「切除可能」と判断した場合には、手術のみ、もしくは手術と薬物療法を組み合わせた治療を行います。
      手術でがんを取り切れるか判断が難しい「切除可能境界」の場合は、先行して化学療法を行い、切除の可能性を再検討のうえで手術を行います。がんが膵臓周辺の大きな血管を巻き込んでいる場合や、別の臓器に転移していて「切除不能」である場合は、薬物療法や化学放射線療法を選択します。

      膵臓がんの治療・病期(外部サイト)

      【手術治療】

      膵臓がんの手術には、腫瘍の存在位置により、膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術、膵全摘術があります。

      〈膵頭部を中心にがんがある場合〉・・・膵頭十二指腸切除術(亜全胃温存SSPPD)
      十二指腸、胆管、胆のうを含めて膵頭部を切除します。がんが胃の近くにある場合は胃の一部を、がんが血管を巻き込んでいる疑いがある場合は血管の一部も切除します。

      〈膵体尾部のがんの場合〉・・・膵体尾部切除術
      膵臓の体部と尾部を切除します。通常は脾臓も摘出します。消化管は切除しないため再建手術は必要ありません

      〈がんが膵臓全体に及ぶ場合〉・・・膵全摘術
      膵臓をすべて摘出することによって膵臓の機能が失われることになります。例えば、膵臓から出ていたインスリンや消化酵素が分泌されなくなることでこれらを補う治療を続けることが必要となります。

      【手術後の合併症】

      〈膵頭十二指腸切除術の合併症〉

      切除した部分や、つなぎ合わせた部分から胆汁や膵液が漏れ、感染、腹膜炎、出血が起こることがあります。また、胃の動きが整わず、食事がうまく食べられなかったり、吐き気が起こったりすることがあります。その場合には、胃の動きが回復するまで点滴などで栄養を補うことがあります。
      胆汁がたまって胆管炎が起こることにより高熱が出た場合には、抗菌剤で対処します。

      〈膵体尾部切除術の合併症〉

      切離した膵臓の断端から膵液が漏れ、感染、腹膜炎、出血が起こることがあります。脾臓を摘出した場合には、肺炎球菌などの細菌に対する抵抗力が落ちるため、肺炎球菌ワクチンの予防接種をします。

      〈膵全摘術の合併症〉

      糖代謝の障害(糖尿病)に対して、定期的にインスリン注射が必要です。消化吸収障害には膵液のかわりとなる消化剤を食事に合わせて服用します。

      【薬物療法(化学療法)】

      ・術前補助化学療法 ・術後補助化学療法

      手術でがんを切除可能な場合、手術の前や後に一定期間、化学療法を行うことで、再発が抑制されたり、生存期間が延長することが分かっています。

      • ゲムシタビン+S-1併用療法
      • ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法
      • ゲムシタビン単剤治療
      • S-1単剤治療

      ・手術できない場合に用いる化学療法

      手術不能や再発した場合にも、がん自体の進行を抑え、延命および症状を和らげることを目的とした化学療法を行います。また、放射線治療と組み合わせた化学放射線療法を行うこともあります。

      • FOLFIRINOX療法 (5-FU+レボホリナート+イリノテカン+オキサリプラチン)
      • ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法
      • イリノテカンリポソーム+5-FU+レボホリナート併用療法
      • ゲムシタビン単剤治療
      • S-1単剤治療
      • 化学療法を行っても進行・再発した場合

      特定のがん遺伝子検査の結果、遺伝子変異があった場合には、以下の薬を使うこともあります。

      • ぺムブロリズマブ(キイトルーダ)(免疫チェックポイント阻害薬)   

        がん遺伝子検査でMSI検査高度陽性(MSI-High:遺伝子に入った傷を修復する機能が働きにくい状態)の場合にのみ使用できます。

      • エヌトレクチニブ(分子標的薬)

        がん遺伝子検査で、NTRK融合遺伝子陽性(正常なNTRK遺伝子の一部が他の遺伝子と何らかの原因で融合した異常な遺伝子)の場合にのみ使用できます。

      【合併症に対する治療】

      〈黄疸や胆管炎に対する治療〉

      膵頭部でがんにより胆管が閉塞すると、胆汁が肝臓から十二指腸へ流れず、肝機能障害や黄疸、細菌が増殖して胆管炎が起こります。ステントと呼ばれるチューブを胆管に挿入して胆汁を排泄する「胆道ドレナージ」を行う必要があります。

      内視鏡的胆道ドレナージ(ERBD)
      胆管に内視鏡を用いて管を挿入します。

      経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)
      お腹の外から肝臓を経由して胆管にチューブを挿入します。

      〈消化管閉塞に対する治療〉

      十二指腸ステント
      膵臓がんによって十二指腸が狭くなり食物が通らない場合に、金属でできたステントで広げます。

      バイパス手術
      切除は困難であるが食事が取れるように、胃と空腸をつなぐバイパス手術を行うことがあります。また、胆管の閉塞に対する胆道ドレナージが挿入困難であるときに胆管と空腸をつなぐバイパス術を行うことがあります。

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